この度は、ゲイ・バイセクシュアル男性のためのインターネット調査REACH Online 2011にご参加いただき、誠にありがとうございました。
REACH Online 2011は、2011年8月22日から2012年1月31日まで実施されました。近年のインターネットを取り巻く環境の変化を考え、今回は、従来のパソコン用調査サイト(PC版)に加え、携帯電話やスマートフォンなど携帯端末からのアクセス(モバイル版)にも対応可能なシステムを採用させていただきました。
数多くの方にご参加いただきまして、合計10,442名(有効回答数)よりアンケート結果をいただきました。内訳は、PC版3,685名、モバイル版6,757名でした。また、アンケートに対するご感想やご意見もたくさん頂戴いたしました。この場をお借りしまして、改めてお礼申し上げます。
研究実施者
平成23年度厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策研究事業
「HIV感染予防対策の個別施策層を対象にしたインターネットによるモニタリング調査・認知行動理論による予防介入と多職種対人援助職による支援体制構築に関する研究」
研究代表者:日高 庸晴 (宝塚大学看護学部 准教授)
研究分担者:嶋根 卓也 (国立精神・神経医療研究センター 研究員)
今回、たくさんの方々がREACH Online 2011にご参加いただきました。ここでは、どのような方々にご参加いただいたのか、そのプロフィールについてご紹介させていただきます。
一部表記を変更しています。
現在、特定の恋人がいらっしゃる方、パートナーを募集中の方、失恋中の方、特定のパートナーを作らない方など、世の中には様々な愛のカタチや、恋愛事情があります。まわりの人がどのような恋愛をしているのか、気になる方も少なくないでしょう。ここでは、参加者の恋愛の状況や、浮気に対する価値観などをご紹介させていただきます。
REACH Online 2011にご参加いただいた方々の交際経験はどのようなものでしょうか。ここではPC版の結果をご紹介したいと思います。
参加者の74.8%は男性と付き合った経験(交際経験)がありました。交際経験率は、10代52.1%、20代66.6%、30代80.8%、40代86.8%、50代87.2%と、年代が上がるとともに上昇していました。
これまで付き合った最長期間は、1~3年未満(22.2%)が最も多く、5~10年未満(13.7%)、3~5年未満(13.2%)と続きました。参加者の年代別にみると、10代~30代では、1~3年未満が最も多いのに対して、40代では5~10年未満、50代では10年以上と最長期間が長くなる特徴があるようです。
では、現在の交際関係はどのようなものでしょうか。現在、男性の恋人がいるのは参加者全体の37.4%であり、年代が上がるとともに、恋人がいる割合も上昇していました(10代22.7%、20代32.6%、30代41.0%、40代45.1%、50代46.5%)。
男性のセックスフレンドがいる方も全体の30.6%にみられました。セックスフレンドがいる割合も、年代が上がるとともに上昇していました(10代22.7%、20代27.5%、30代33.5%、40代34.0%、50代35.8%)。
一方、参加者の交友関係についてはどのような状況でしょうか。参加者全体の55.5%は、心を許せるゲイ友達がおり、50.6%は心を許せる異性愛友達がいると回答しました。
REACH Online 2011では浮気に対する価値観として、自分の恋人が他の男性に関わる場合、「恋人の浮気をどこまで許せるか?」 といった許容範囲や、参加者が恋人以外の男性と「実際にどこまでアクションを起こしているか?」といった自身の行動についてお聞きしました。
まず、自分の恋人が他の男性に対して関わる場合に許容できる行動として、「ゲイバーに行くこと」88.4%、「出会い系SNSでのメッセージ交換」72.7%は許容できる人が多いことがわかりました。これに対して、「他の男性とキスすること」は60.6%が、「他の男性とオーラルセックスすること」は69.1%が許せないという回答でした。
一方、自分に恋人がいる時に、参加者の47.6%が「ゲイバーに行ったことがある」、59.2%が「出会い系SNSでのメッセージ交換をしたことがある」と回答していました。さらに、54.7%が「他の男性とのキス」、55.0%が「他の男性とのオーラルセックス」を経験していました。つまり、自分の恋人に対しては他の男性とのキスやオーラルセックスを許容できない行動と考えている一方で、自分自身は他の男性とそのような経験をしている人も少なくないという価値観と行動とのギャップがうかがわれます。
ゲイタウンによく行く人、たまに行く人、ほとんど行かない人、行きたいけど近くにない人、いろいろな人がいます。クラブイベント、ゲイバー、ハッテン場、マッサージなど、ゲイ向けの施設もさまざまです。下のグラフは、過去6ヶ月間に利用したゲイ向け関連施設を示したものです。参加者が利用したゲイ関連施設は、ゲイバー(PC24.6%、モバイル36.5%)、サウナ系ハッテン場(PC18.8%、モバイル25.6%)、マンション系ハッテン場(PC14.5%、モバイル20.1%)、野外系ハッテン場(PC12.0%、モバイル17.5%)、ゲイ向けクラブイベント(PC9.5%)、ビデオボックス系ハッテン場(PC5.9%、モバイル7.7%)という結果でした。いずれもモバイル版参加者のゲイ向け施設の利用率が高く、ゲイタウンに来る頻度が高い可能性が考えられます。また、施設利用率は10代~20代よりも30代~40代の方が高く、地方在住者よりも都市部在住者の方が高いという結果も得られています。
しかし、2008年の調査結果と今回の結果を比べてみると、ある変化に気づきます。いずれの施設においても利用率が減少しているのです。減少の原因は、景気低迷により、個人の消費が減少しているなどの経済的影響も考えられますが、ゲイ向けの出会い系アプリやSNSが次々と登場し、ゲイタウンではない場所で出会いの場が増えているため、ゲイタウンへ来る機会そのものが減っているのかもしれません。
あなたは普段どんなアプリ・SNSを使っていますか?ここでは、REACH Onlineの参加者がどんなアプリ・SNSを使っているのかご紹介しましょう。過去6ヶ月間の使用状況をみてみると、mixi(41.8%)やTwitter(36.2%)などセクシュアリティ問わず一般的に使われているSNSの使用率が高いことがわかります。
しかし、これらのSNS・アプリの使用経験者を分母として「男性との出会い経験」、「出会った男性とのセックス経験」をたずねると、ランキングが大きく入れ替わります。男性との出会い経験率が最も高いのはJack’d(62.2%)で、Gradar(59.6%)、男子寮(50.7%)と続きました。出会った男性とのセックス経験率が最も高いのはGradar(45.6%)で、Jack’d(43.3%)、男子寮(42.7%)と続きました。上位にランキングされているこれらのSNS・アプリは主としてゲイ向けに開発・運営されているものであり、実際にこうしたSNS・アプリを通じた出会いやセックスが頻繁に行われていることを裏付けるような結果と読み取れます。携帯端末に搭載されたGPS機能を使って、より早く、確実に出会えるようなシステムを取り入れたアプリも人気があるようです。こうした新しい出会いの場が増えたことが、ゲイタウンの利用率減少に影響しているのかもしれません。
私たちは、日々さまざまなストレスに晒されています。テストの成績が良くなかった。仕事でミスをして上司に怒られてしまった。片思いだった人に告白したけど、上手くいかなかった。ストレスの原因は人によってさまざまです。ゲイ・バイセクシュアル男性の中には、生育歴のなかでのセクシュアリティに起因するいじめ被害などにより、さまざまな心理ストレスやトラウマを抱えている方が少なくないことがこれまでの研究で明らかにされています。また、成人後においても、異性愛(ヘテロセクシュアル)中心の社会で生活していく上で、セクシュアリティに起因する差別や偏見に晒された経験を持つ方も少なくないでしょう。
REACH Onlineでは、これらのストレスの度合いを客観的に数字で表現したいと思いました。つまり、”ものさし”を使ってストレスの度合いを測ってみようという試みです。今回採用した”ものさし”はK6/K10と呼ばれるスクリーニングツールです。K6/K10は、米国のKesslerらによって開発された調査票で、うつ病・不安障害などの精神疾患をスクリーニングする目的で使われます。
このK6やK10の数字は、質問の項目数を表しています。例えば、今回PC版ではK10を採用しましたが、「神経過敏に感じましたか」、 「そわそわ、落ち着かなく感じましたか」、「気分が沈み込んで、何が起こっても気が晴れないように感じましたか」、 「何をするのも骨折りだと感じましたか」、 「自分は価値のない人間だと感じましたか」など計10項目の質問について過去30日間のこころの状態をふりかえり、「全くない、少しだけ、ときどき、たいてい、いつも」の5段階で回答し、スコアを計算します。スコアが高いほど、心理的ストレスを含め精神的健康(メンタルヘルス)の不調の度合いが高いことを意味します。
Sakuraiらによれば、地域住民のメンタルヘルスの状況をK10で測定し、スコアの10点を判断基準(カットオフ値と言います)とした場合、26.5%がメンタルヘルスに不調がみられることが報告されています。これに対して、REACH Onlineの参加者では、46.6%がメンタルヘルスに不調がみられます。下図に示したように、メンタルヘルスに不調がみられる方の割合は10代が最も高く、年代が上がるにつれて減少する傾向がみられています。これらの結果から、地域住民に比べ、ゲイ・バイセクシュアル男性はメンタルヘルスに不調がみられる方が多く、特に若年層においてその傾向が強い可能性が考えられます。
文献
Kessler RC, Barker PR, Colpe LJ, et al.: Screening for serious mental illness in the general population. Arch Gen Psychiatry.60(2), 184-9, 2003.
Sakurai K, Nishi A, Kondo K, Yanagida K, Kawakami N.: Screening performance of K6/K10 and other screening instruments for mood and anxiety disorders in Japan. Psychiatry Clin Neurosci. 65(5):434-441, 2011.
「気持ちが落ち込んでやる気が出ない」、 「夜になると不安な気持ちになる」、 「ベッドに入ってもなかなか眠れない」などなど、メンタルヘルスに不調がみられる場合は、ひとりで抱え込まず、精神科医等の専門家に早めに相談することが必要でしょう。
では、メンタルヘルスに不調がみられるゲイ・バイセクシュアル男性のうち、どのくらいが医療やケアにつながっているのでしょうか。前述のK10のスコア10点以上の対象者において、過去6ヶ月間に不眠、不安、気分の落ち込みなどのメンタルヘルスの症状を理由に、心理カウンセリング、心療内科、精神科を受診した方は7~9%程度にとどまっています。つまり、メンタルヘルスに何らかの不調がみられている方であっても、医療やケアにつながっているのは1割にも満たない状況です。医療やケアにつながった方であっても、診療の場において自分の性的指向について話した経験を持つ方は、わずか8.5%にとどまっています。
これらのデータから、メンタルヘルスに不調がみられるゲイ・バイセクシュアル男性が医療やケアにつながっていない理由や、診療の場で自分の性的指向について話せていない理由についてまで探ることはできません。しかし、メンタルヘルスの支援に関わる専門家は、性的指向の多様性を理解し、ゲイ・バイセクシュアル男性にフレンドリーな医療やケアを提供できるような体制を作っていくことが必要ではないでしょうか。
パートナーと二人で食事をしながら、友人や知人とワイワイと居酒屋で、職場の同僚や上司との飲み会で、いきつけのゲイバーで、遊びにきたクラブイベントで、私たちはさまざまな場面でお酒を飲む機会があります。飲むと顔が真っ赤になる、頭が痛くなり、気分が悪くなる、など体質的にお酒が飲めない人もいるでしょう。これには私たちの体内にあるアルコールを分解する酵素が関係しています。一方、ストレスが溜まるとついついお酒の量が増えてしまう、最近悩み事があり寝付きが悪いので寝る前に飲むことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。このような方は、ストレスへの対処行動として、あるいは睡眠薬の代用品としてお酒を使っている可能性があります。
お酒のイッキ飲みは、急性アルコール中毒につながる可能性が高い、危険な飲み方です。また、イッキ飲みに限らず、飲み過ぎてしまった結果として、酔いつぶれてフラフラになったり、嘔吐をしてしまったり、記憶が飛んだりしてしまった経験を持つ方も少なくないでしょう。そこで今回のアンケートでは健康リスクの高いお酒の「飲み方」に着目し、その結果、どのようなエピソードを経験しているかをお聞きしました。
下図は、過去1年間に経験した健康リスクの高い飲酒(問題飲酒と呼びます)のエピソードをゲイバーとゲイバー以外のセッティングに分けたものです。全体として、ゲイバーでのエピソードよりもゲイバー以外のセッティングの方が、経験割合の高い傾向がみられます。ゲイバー以外のセッティングを示す赤いグラフに着目すると、イッキ飲み(22.0%)、酔いつぶれ(23.5%)、飲酒による嘔吐(25.9%)は、5人に1人以上の方が経験しており、ブラックアウト(過度の飲酒で一時的な記憶が欠落する現象)も15.5%が経験しています。しかし、急性アルコール中毒まで至った経験はほとんどみられないようです(0.7%)。
一方、グラフ下部に書いてある「暴飲」ですが、これは米国などの研究でBinge drinking(ビンジドリンキング、暴飲)と呼ばれている言葉です。暴飲の定義は研究によりまちまちですが、「一席(飲み会であれば、約2時間)で5杯以上の酒を立て続けに飲む」という、連続飲酒を指すことが一般的のようです(*1)。この定義に当てはめると、ゲイバー以外のセッティングでは43.6%、ゲイバーにおいても15.8%の方が過去1年間に暴飲のエピソードを持っていることがわかります。なお、暴飲には、周囲の者が飲酒をあおるようなイッキ飲みの要素は含まれていませんが、”暴飲者” (ビンジドリンカー)は、非暴飲者に比べ、大麻などの薬物使用のリスクが高いことがこれまでの研究で明らかにされています(*2)。
文献
*1 Wechsler, H., Davenport, A., Dowdall, G., Moeykens, B., & Castillo, S.(1994). Health and behavioral consequences of binge drinking in college: A national survey of students at 140 campuses. Journal of the American Medical Association, 272, 1672-1677.
*2 D’Amico, E. J., Metrik, J., McCarthy, D. M., Appelbaum, M., Frissell, K. C., & Brown, S. A. Progression into and out of binge drinking among high school students. Psychology of Addictive Behaviours, 15(4), 341–349. 2001.
言うまでもなく、日本において成人の飲酒は、法的には何の問題もありません。しかし、法的には問題なくても、お酒に含まれるアルコール成分(エタノール)には依存性があり、大量頻回飲酒や、暴飲(Binge drinking)やイッキ飲みのような問題飲酒を繰り返していくうちに、アルコール依存症となるリスクは確実に増加します。依存症とは、自身の健康に何らかの影響が生じているにも関わらず、自らの意志では飲酒を止められなくなる精神障害の一つです。その結果、日常生活、仕事、人間関係、経済状態にも悪影響が生じ、生きていくことがどうにもならない状態になる方も少なくありません。アルコール依存症となった方の多くが「自分だけは大丈夫だと思っていた」、「お酒なんていつでもやめられると思っていた」と過去を振り返っています。
アルコール依存症の専門病院や、精神保健福祉センターと呼ばれる行政機関で、アルコール問題に関する専門的な治療や相談を受けることができます。しかしながら、こうした専門施設でセクシュアルマイノリティに配慮した対応がどこまで可能であるかは不明です。もちろん、性的指向に理解の深い臨床家や援助者もいますが、性的指向を十分に理解していない専門家にヘンテコな対応をされて、イヤな思いをした経験を持つゲイ・バイセクシュアル男性もいらっしゃるようです。今後、メンタルヘルスの支援者にセクシュアルマイノリティに関する理解を求めていくことも重要です。
あなたや、あなたの周りの大切な人がアルコール問題に直面しているのであれば、AA(アルコホーリクス・アノニマス)に参加するという方法もあります。AAとはアルコール依存からの回復を願う当事者同士が集まる自助グループです。AAには、セクシュアルマイノリティのためのグループがあり、クローズドミーティング(当事者限定)が開催されています。ただし、セクシュアルマイノリティによるグループ数は少なく(2013年6月時点で週3回、四谷と新宿)、今後の拡大が期待されます。
参考:Alcoholics Anonymous® of Japan http://www.cam.hi-ho.ne.jp/aa-jso/
ゲイ・バイセクシュアルとしての生きづらさを感じさせるコメント、セックスやHIV/AIDSに関する記述、ドラッグに関する記述、現在と将来の生活に対する不満や不安、セクシュアルマイノリティに対する社会の変革を求める声など、深く考えさせられるコメントをたくさんいただきました。一部ではございますが、以下ご紹介させていただきます。(なお、個人特定を避けるため、また用語や文体を統一するため、一部修正してあります。ご了承ください)
2012年1月末時点
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